眼瞼下垂症(先天性・後天性)
introduction.01導入
朝起きるために、瞼を開いて、立ち上がり、一日が始まります。瞼を開くという事は日常的に誰しもが行う行為です。あまりに当然の事なので、不具合が生じていない方にとっては意識する事さえ難しい事かもしれません。しかし、瞼の開けづらさや重さを感じ、垂れ下がる事で視野が狭くなってしまうなどの症状を持つと、1日中悩まされることになります。また、眼瞼下垂症の患者さんは、代償的に眉毛挙上することで視野を維持します。この場合、後頭前頭筋が収縮している傾向があり、緊張型頭痛や肩こりの原因になりうる事が報告されています。
眼瞼下垂症手術をすることで、視野の改善や瞼が開けやすくなるだけではなく、頭痛や肩こりが緩和されると言われる患者さんが多いことは興味があるところです。
introduction.02ポイント
眼瞼下垂は大きくわけて、先天性眼瞼下垂と後天性眼瞼下垂に二分されます。
先天性眼瞼下垂とは、生後すぐに開瞼できない事で気が付かれます。病態的には上眼瞼挙筋の不全や欠損によると考えられています。後天性眼瞼下垂は物理的刺激(アトピーや、花粉症、コンタクトレンズ、アイメイク、加齢等)により眼瞼挙筋腱膜が瞼板よりはずれてしまう腱膜性眼瞼下垂と眼瞼挙筋の筋力が低下してしまうような病態(神経原性、筋原性、外傷など)に分けられます。
いずれにしても、私たちは、正面を注視したときに瞳孔が隠れてしまう視野障害と視野障害に付随して生じる機能障害(不快感や、目の緊張、顎上げ症状など)を治療対象としています。治療法は、病態に応じて、皮膚切除や挙筋前転法、筋膜移植法を行っております。
introduction.03症例
先天性眼瞼下垂のお子様の場合は平均的には3歳で初回の手術を行います。眼瞼挙筋の欠損の程度にもよるのですが、眼瞼挙筋の機能がほとんど認められない場合には大腿筋膜を用いた筋膜移植を行っております。全身麻酔で行います。視野の改善だけでなく、形態的にも良好な結果が必要となります。
局所麻酔が可能な年齢での手術は、できるだけ局所麻酔下での手術を行っております。局所麻酔では、開瞼の具合や開瞼の形の調整をご本人に確認していただきながら手術ができる利点があります。
眼瞼下垂症手術後の患者さんは、良好な視野が得られる事を自覚していただけます。それだけでも喜んでいただける事の多い手術ではありますが、顔の整容面で非常に難易度の高い手術と考えています。機能的にも、整容的にも満足のいく手術を提供するためには、解剖学や生理学、病態を理解した上での技術習得が不可欠で、とても奥の深い手術だと感じております。
執筆 医員 金子愛