教授挨拶 │ 浜松医科大学医学部附属病院 形成外科

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Greeting.01沿革

 浜松医科大学形成外科学教室の源流は、1977年浜松医科大学医学部附属病院が開院した際、皮膚科の中に開設された形成外科診療班に遡ります。前教授の深水秀一先生と現日本医師会常任理事の松本吉郎先生の2名が1980年に本学卒業後に入局したことに始まります。1992年に診療班は一度解散し、その後大学には形成外科がありませんでしたが、大学の各診療科および地域の病院から形成外科開設を熱望されるようになり、2007年に深水秀一先生を診療科科長として独立した形成外科が新設されました。当時4名で始まった当診療科は、医局の雰囲気と仕事のやりがいから毎年のように入局者があり、現在30人を超える医局員や50名を超える同門会員が県内を中心に活躍しています。2020年に深水秀一教授の定年退任に伴い、中川雅裕が静岡県立静岡がんセンターより教授として就任しました。

Greeting.02形成外科について

 形成外科は、身体に生じた体表の異常や変形、組織の欠損、あるいはその他のさまざまな整容的な問題に対して手術を行い治療する外科です。特殊な縫合法や、植皮術・皮弁術・遊離組織移植術といった細かな技術を用いた大胆な手術や再建方法などで、形態のみならず機能の両面を回復し、生活の質“Quality of Life” の向上に貢献します。
従って形成外科の守備範囲は広く、頭のてっぺんから足の先まで、そして頭蓋や頭頸部、胸腹部、骨盤や四肢へも及び、取り扱う臓器は皮膚のみならず、脂肪、筋肉、骨・軟骨、そして血管や神経に対して外科的手技を用いながら治療していきます。さらに最近では、外科的手技だけでなく再生医療の知識と技術を駆使した治療法も取り入れています。

Greeting.03当科の特徴

  当科は静岡県唯一の医科大学として形成外科で扱うさまざまな疾患を治療しています。特に腫瘍およびそれに関連する再建では、全国でも皮膚悪性腫瘍やがん切除後の再建手術の有数の手術件数を誇っています。再建手術では、他の診療科と協力して乳房再建や頭頸部再建も遊離皮弁や有茎皮弁など様々な方法で質の高い再建を行っています。
 外傷は、切断指を含めた手の外傷や顔面骨折の症例が多く、広範囲熱傷では、救命はもとより急性期からのリハビリテーション、瘢痕拘縮の修復まで一貫した治療を行っています。
 先天異常では、顔面の唇顎口蓋裂、耳の奇形、眼瞼下垂に加え、手足の多指症・合趾症などが多く、マイクロサージャリーを駆使した治療も行っています。また、2020年より静岡県立こども病院とも連携してさらに良い治療を目指しています。

Greeting.04形成外科の研修

 浜松医科大学形成外科では臨床教育に力を入れています。特に後期臨床研修に相当する期間では集中的に臨床教育の手ほどきを行い、知識はもちろん手を動かして手術技術を習得してもらいます。特に大学病院では若い医師にも執刀してもらい積極的に手を動かし技術を学ぶようにしています。専門医取得のためには様々な疾患を経験しなければいけませんが、当科及び、静岡がんセンターや静岡県立こども病院などの特殊疾患を扱う病院やその他県内の多くの関連病院で形成外科の全ての領域で豊富な症例を有しています。
 専門医取得以降はさらに専門性の高い臨床教育を今度は教える側として一丸となって実現しています。現在医局員は若い形成外科が多く、まだまだ形成外科医局としては発展段階です。そして静岡県の東部、中部、西部全域に渡り、現在20を超える関連病院に30名以上の医局員を派遣し、これらの病院と連携して静岡県という広域医療圏の形成外科診療を支えています。
 また、臨床だけでなく研究にも力を入れています。研究を通して、臨床を顧みる研究マインドを求めるようにしています。症例を経験すればするほど知識は増えます、常に基礎的な知識を発展させる知恵が必要になります。基礎知識をもとにして、患者さんに起っていることを究明し、学会報告したり論文にまとめたりする指導をします。さらに、突き詰めて動物実験など基礎研究に発展させる場も用意しています。一流の臨床医として、またリサーチマインドを持ったスケールの大きな形成外科医が育っていくのを切に願っています。

Greeting.05明日を担う形成外科医への期待

 浜松医科大学形成外科を立ち上げた前深水秀一先生の基本となる信条が三つあります。
①多様性を認める
②臨床においても常にリサー医マインドを持つ。
③患者全体を見る
です。
 第一は多様性を認めることです。形成外科は再建において様々な診療科の先生と協働で治療することが多くなります。しかし、形成外科と他診療科の先生では考え方が異なることがあります。それを話し合いで、それぞれの科の利益でなく患者にとっての最良の治療を選択することが必要だと考えます。また、当科のような新しい医局では、それぞれの人間が自立性を持ち、能力・個性を最大限に伸ばしながら、機会均等・人と人の和を重要視することが医局の早期発展につながり、新しい治療やおもしろい研究ができるのではないかと思います。また昨今、働き方改革が叫ばれていますように、妊娠中や子育て中の若い医師(女医さんだけに限りません)も安心して仕事ができるように努力しています。ただし、すべてを受け入れるというのではなく、個々の人間に常識があり、信頼の上に成り立っていることは言うまでもありません。
 次に臨床においても常に研究マインドを持つことです。若い先生は、ついつい日常の業務に埋没しがちですが、常に新しいもの、より良いものを探求する姿勢は重要です。新しい技術開発することも重要です。私自身も、新しいレーザーによる血管吻合の機器を開発する努力をしています。新しい治療法や手術法を積極性に取り入れていきたいと考えます。
 

 最後に患者の全体を見ることの重要性です。形成外科見た目で疾患を診断できる科でもあります。外傷であったり、先天異常であったり、乳房再建であったり見た目で診断でき、治療後も見た目が重要になります。しかし、患者の見た目だけで安易に判断するのではなく、その患者の社会背景や他に隠れている疾患、患者の気持ちや精神状態なども見抜く力も必要だと考えます。形成外科の専門の一つは創傷治癒ですが、「傷を通して全身を診る」ことをモットーしており、これは、局所ばかりに目を向けず全身管理ができるという意味もありますが、難治性の傷から珍しい病気を診断したり、内臓疾患の増悪を指摘したり、先天異常の患児や家族の精神状態を推し量ることにも通じるところがあります。
 これら3つの基本の信条を常に持ち医局を運営したいと考えています。
 明日を担う若い先生の多くが浜松医科大学形成外科の門をたたくことを期待しています。